第24話 海ごみの話 その2「海ごみの影響」

海岸を覆う漂着ごみ

「その1 海ごみの実態」で紹介したように、海ごみ1には「漂着ごみ」「漂流ごみ」「海底ごみ」があります。世界の海には5兆個ものプラスチック片が漂流しているとの試算があります2。プラスチックのように分解されず、延々と漂流し続けるごみもあれば、沿岸に漂着するごみもあり、海洋生物や沿岸環境に大きな影響を与えています。
日本国内にも多くの海ごみが漂着しています。日本への漂着ごみの量は、環境省の推計3によると、年間31万トンから58万トン(平成25年)。例えると、京都市の受入ごみの総計が約42万トン4ですので、150万市民及び事業所が一年間に出すごみにほぼ匹敵する量のごみが、日本国内の海岸に漂着していると考えることができます。

放置すれば環境汚染、回収しても処理困難

ただし、上の例えは「量」だけを取り上げています。実際の漂着ごみは、市民が分別排出した「お行儀の良いごみ」とはわけが違います。
環境省は、平成27年度おもに日本海沿岸道府県の海岸に漂着した海ごみの個数を取りまとめて発表しています※5。それによると「廃ポリタンクは15道県で20,221個、医療系廃棄物は9県で2,121個、漁具(浮子)は14道県で186,949個、電球類は10道県で3,592個確認された。」としています。廃ポリタンクの中には、塩酸、強アルカリ溶液、船舶用燃料やオイル、油脂などが入ったものもあります。医療系廃棄物には使用済み注射針もあります。漁具のうち魚網や釣り針は海鳥や海獣、魚たちにからまり、彼らの命を奪います。
他にも、ガスが残っている使用済み使い捨てライターなども多く漂着します。
放置すれば環境汚染や景観破壊につながり、漁業や観光に打撃を与えます。回収しても処理困難、それが漂着ごみです。もちろん日本だけでなく、途上国、先進国を問わず、世界中の海岸に大量の海洋ごみが、毎日のように漂着し続けています。

海洋漂流ごみの生物への影響

海洋を漂流し続けるごみは、海の生物に影響を与えます。漂流するうちに紫外線や熱、波の力などで細かく砕かれたプラスチックのうち、5mm以下のものをマイクロプラスチックと呼んでいます。細かくなったプラスチック片は海洋生物の誤飲を招きます。
National Geographics日本版WEB 2015年9月7日の記事は、胃の中からプラスチックが見つかった海鳥は、1960年には5%にも満たなかったが、1980年までに80%へと跳ね上がり、現在では90%に達していると報告しています6。海洋を浮遊するプラスチックの凄まじい増加を物語る数字です。
飲み込んだプラスチックが尖っていれば胃や食道の内壁を傷つけます。また大量に飲み込んだプラスチックは、消化されず胃に溜まり、栄養の摂取を妨げ、やがて生命を奪います。
水面を浮遊するレジ袋を、ウミガメがクラゲと間違えて飲み込み、死に至らしめるという指摘に対して、「それは間違いだ」といった記事もネットで見かけます7。一方、NHKが検証した映像8を観ると、ウミガメがレジ袋をクラゲと間違い飲み込むこと、実際に多く飲み込んでいるウミガメがいることは事実のようです。
海鳥やウミガメだけではありません。魚も多くのプラスチックを誤飲しています。「その1 海ごみの実態」で紹介した「海洋ごみシンポジウム」9での東京農工大学高田秀重教授の資料10によると、80%のイワシの消化管からプラスチック片が検出されるようになっています。

有害化学物質を吸着するプラスチック

プラスチックの誤飲による海洋生物への影響として、新たな問題がわかってきました。特に小さな細片となったマイクロプラスチックは、海水中に残留している有機汚染物(POPs、PCB類、DDT類など)を吸着することがわかってきました。今のところ野生生物においてマイクロプラスチックが媒介したと思われる有機汚染物質の影響は観測されていないとのことですが、室内実験では、肝機能障害や再生能力の低下など、生物への影響の報告もあります。今後の調査・研究が注目されます。日本近海のPCB濃度は世界的にも見ても高く、何十年も前に使われなくなった化学物質が、今も環境に悪影響を与え続けています。
さらにプラスチックの添加剤として含まれ、環境ホルモン作用が疑われるノニルフェノールも海洋を漂い続けるプラスチックに残留していることが明らかになってきました11

今後何もしなければ、魚よりプラスチックの方が多くなる

2016年1月にスイスのダボスで開催された「世界経済フォーラム(ダボス会議)」で出された報告書には、今後のプラスチックごみの影響として衝撃的な予測が載っています12
・今後20年でプラスチックの生産量は、2010年の2倍になる。
・海洋への流出プラスチックの量は、今後何もしなければ2025年には2010年の10倍になる。
・2050年までに、海洋の全魚類より海洋に漂流するプラスチックの方が多くなる(重量ベース)。
プラスチックごみ、特にマイクロプラスチックのリスクについて、まだ不確かなことが多々あります。ですが、世界は予防原則に基づいて対策を進めつつあります。なにせ、一度海洋に流出したプラスチックを完全に除去することは不可能なのですから。

次回は「海ごみと私たちの暮らし」をテーマにします。私たちは被害者だけでなく、この問題の加害者でもあるのです。(以上)

SANYO DIGITAL CAMERA

鹿児島県指宿市から見た東シナ海の夕陽

※1 日本の環境省は「海洋ごみ」と表現している。
※2 http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0111913
※3 海岸漂着物地域対策推進事業より(2013年度、回収量も)
※4 京都市環境政策局資料より、2016年度、収集ごみと持込ごみ。燃やすごみ、大型ごみ、資源ごみ、事業ごみの合計
※5 環境省「日本海沿岸地域等への廃ポリタンク等の漂着状況について」2017年3月23日発表
http://www.env.go.jp/press/103844.html(データは各道府県が把握した分)
※6 National Geographics日本版WEB「海鳥の90%がプラスチックを誤飲、最新研究で判明」2015年9月7日公開
※7 http://ocean-wanderer.info/wwwp2/wp-content/uploads/2009/a2s.png
※8 http://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005402553_00000&p=box
※9 環境省主催「海洋ごみシンポジウム」2016年12月10日開催
http://www.env.go.jp/water/marine_litter/2016.html
※10 「マイクロプラスチック汚染の現状、対策、国際動向」高田秀重より
※11 前出「マイクロプラスチック汚染の現状、対策、国際動向」から
※12 「海洋ごみとマイクロプラスチックに 関する環境省の取組」環境省よりwww.env.go.jp/water/marine_litter/00_MOE.pdf

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です