漂着ごみは、海ごみの一部
□「海ごみ※1」が、深刻な地球規模の環境問題として注目されています。一方、「海ごみって、海岸に漂着するごみのことだよね」という人もいます。沿岸に漂着するごみも、深刻な問題を生んでいますが、海ごみには、「漂着ごみ」だけでなく「漂流ごみ」と「海底ごみ」があります。
□太平洋をはじめ世界の海洋には、膨大なごみが漂い続けています。特にプラスチックは自然界で分解されにくく、海流に乗って漂流し続け、海洋生態系や漁業への影響が懸念されています。
□これから4回ほどかけて、一般に流布している資料から海ごみ問題について、まとめてみたいと思います。第1回は「海ごみの実態」
実態がわかってきた海ごみ
□「海流に乗って漂流するごみ」として、30年近く前から太平洋に巨大なごみベルトがあるとの報告が出されていました※2。ですが、陸上で暮らしている私たちに「漂流ごみ」は実感しにくく、近年まで大きな話題になりませんでした。しかし、多くの研究者の地道な調査、漁業や船舶運輸関係者の証言などで、近年実態が明らかになってきました。
□2016年1月に開催されたダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)でも、この問題が取り上げられ、そこで出された海ごみに関する報告書によって、その深刻な実態が明らかになりました。また、日本国内でも環境省が2016年1月と12月、内外の研究者らを招き、「海洋ごみシンポジウム」を開催するなど、関心が高くなっています。
□以下は、2016年12月に開催された「海洋ごみシンポジウム(環境省主催)」資料※3から、海ごみのうち、主にプラスチック由来の漂流ごみの実態についてまとめたものです。
海に流出するプラスチック
□まず世界のプラスチック生産量ですが、1964年当時年間約1,500万トンだったものが、半世紀後の2014年には3億1,100万トンへと、20倍に増えました。
□使用後のプラスチックのうち、毎年少なくとも800万トンが海に流出しているとのことです。流出国のトップは中国と見られ353万トン/年(2010年推計。以下同じ)。2位以下インドネシア129万トン/年、フィリピン75万トン/年、ベトナム73万トン/年と続き、上位4位までを東・東南アジア諸国が占めています。
□流出量の推計値には幅があり、上記はそれぞれの推計量の最大値です。それでも、この4カ国分を足しただけでも630万トンになり、この地域からの流出プラスチックの多さがわかります。
□日本からも年間6万トンのプラスチックが流出していると見られます。先にあげた国々よりずっと少ない量ですが、これらの国々より数十年早く工業化し、過去には深刻な公害を経験している日本だけに、過去も含めた累積流出量は相当なものになると思われます。
約5兆個の漂流プラスチックごみ
□海洋を漂流するプラスチックごみのうち、5mm以下のものはマイクロプラスチックと呼ばれています。洗顔剤や歯みがきなどに含まれるビーズ状のスクラブ(研磨剤)、フリース衣料の洗濯時に出る細かなくず(マイクロファイバー)などもマイクロプラスチックになります。このような元々小さなプラスチック片は排水とともに下水処理場に行き着きますが、処理工程で捕捉されず、処理水とともに環境中に放出されるものも多くあります。このような元から小さなマイクロプラスチックは、「一次的マイクロプラスチック」と呼ばれています。
□一方、容器包装など、元は大きなプラスチックごみが海に流出し、漂流するうち紫外線や熱、波の力で破砕され、マイクロプラスチックになる場合もあります。これらは「二次的マイクロプラスチック」と呼ばれています。
□マイクロプラスチックも含めたプラスチックごみが、世界の海に約5兆個も漂流しているといわれています。5兆個という数字を示されても実感できませんが、膨大なものであることは確かです。中でも日本周辺海域のマイクロプラスチックの密度は高く、1km2辺りの個数は1,720,000個という調査データがあります。北太平洋が105,100個、世界平均が63,320個ですので、如何に大量のマイクロプラスチックが日本近海に漂っているかわかります。
(以上)
□次回以降、「その2 海ごみの影響」「その3海ごみと私たちの暮らし」「その4 海ごみの発生源対策」と書いていきます。
※1 環境省は「海洋ごみ」と表現している。
※2 アメリカ海洋大気庁が1988年に公開した報告より
※3 「海洋ごみとマイクロプラスチックに関する環境省の取組」環境省よりhttp://www.env.go.jp/water/marine_litter/2016.html
写真は、鳴き砂で有名な京都府京丹後市網野町の琴引浜。鳴き砂を守るため、日本初の禁煙ビーチとなったが、毎年多くの漂着ごみに悩まされている。