第25話 海ごみの話その3「海ごみと私たちの暮らし」

全4回予定の「海ごみ」記事。今回は「海ごみと私たちの暮らし」がテーマ。

種々雑多な海ごみのうち、ペットボトルから考える

海ごみには「漂着ごみ」「漂流ごみ」「海底ごみ」があり、漂着ごみには、前回(その2 海ごみの影響)報告したように、ポリタンク、漁具、医療廃棄物など種々雑多なものがあります。海岸に漂着し浜を埋め尽くすごみの山に分け入り、出所を明らかにするのは大変な作業ですが、多くの人の地道な調査によってその出所が明らかになってきました。
種々雑多な海ごみですが、日本列島各所に漂着するごみの中から飲料ペットボトルを取り上げ、私たちの暮らしとのつながりを見ていきます。

漂着ごみって、外国から来るもの?

図1は、2016年12月環境省主催で開催された「海洋ごみシンポジウム」で、環境省が示した資料中の一部です1
図中の円グラフは、日本国内各所に漂着したペットボトルの製造国を調べ、国別の比率を示したものです。これを見ると、沖縄県の石垣島は中国製が圧倒的に多く、長崎県対馬や山口県下関市(調査地は日本海側)は、いずれも韓国製が半数以上を占めています2
よく漂着ごみのニュースでは、「海外から多くのごみが日本の海岸に押し寄せている」といった取り上げ方がされています。なので「漂着ごみ=海外から流れてくるもの」というイメージを持っている人も多いと思います。今見た3つの円グラフだけを見れば、まさにそのイメージ通りの調査結果が出ています。

漂着ペットボトルの製造国別割合

図1 環境省の海洋ごみの実態把握調査(漂着ごみ調査結果(個数))より

国内から流出しているペットボトルも多数

ところが、日本海側でも能登半島(石川県羽咋市)までくると、漂着ペットボトルで最も多いのは日本製になります。太平洋側を見ると、鹿児島県南さつま市、茨城県神栖市でも日本製ペットボトルが最も多くなります。日本列島近海の海流は、西日本では西から東,東日本の太平洋側では北から南に流れていますので、調査点より西または北の日本国内から流出したものが漂着していると思われます。
南さつま市と神栖市で見つかった漂着ペットボトルは、日本海の調査点よりかなり少な目ですが3、瀬戸内海に面した兵庫県淡路市には、日本海の調査点と比べて6〜7割の漂着ペットボトルがあり、そのほとんど(98%)が日本製です。日本の国土に囲まれた内海をみても、多くのペットボトルが流出していることがわかります。

各地の川ごみ調査でも流出は明らか

ペットボトルに関しては、日本では子どものうちから「分別・リサイクルの大切さ」が教え込まれ、回収システムも各地自治体により整備されてきました。業界団体5から発表されるペットボトル回収率は、2012年以降毎年90%を越えています6。こういった情報だけを見ると、環境中に投棄された使用済みペットボトルなど、ほとんどないように思います。しかし実際にはそうではありません。
各地の川ごみ調査の結果は、国内からの流出をはっきりと物語っています。図2は、京都府亀岡市内を流れる保津川で清掃活動や環境教育活動に取り組んでいるNPO法人プロジェクト保津川7の資料です。ボランティアの人たちと保津川で回収したごみの種類別個数をグラフ化しています。これを見ると、飲料ペットボトルが圧倒的に多いことがわかります。保津川は京都盆地を経て、桂川、淀川と名を変え、大阪湾(瀬戸内海)に注ぎます。
こういったことは保津川に限りません。東京を流れる荒川流域で活動するNPO法人荒川クリーンエイド・フォーラムの調査8でも、同じように飲料ペットボトルが他を圧倒しています。これらの川ごみの調査結果は、海岸への漂着ごみの調査結果と合致します。
保津川での回収ごみ2016.10.22
図2 NPO法人プロジェクト保津川による保津川回収ごみ調査報告

海ごみの背景にある私たちの暮らし

ペットボトルだけではありません。多くのプラスチックごみが川岸から見つかっています。しかもそれらの多くが使い捨てのプラスチック製容器や包装です※9。道路上のごみが側溝や小河川を通じて、また河川敷公園のごみが本流に入り、やがて海へと流出し、海ごみとなります。
上記の2法人の調査では、保津川および荒川流域の広範な範囲でプラスチックごみが見つかっています。決して工業団地やプラスチック再生工場など特定施設からの流出ではありません。これらの流出の背景には、商品購入後短時間で役目を終える使い捨ての容器や包装を、大量に使用する私たちの暮らしがあります。
荒川を埋めるペットボトル
図3 荒川の川岸を埋め尽くすペットボトルごみ(写真提供 NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム)

さらに分別・リサイクルに励めばいいの?

日本のすぐ東に国がないため、これまで大きな問題にならずに済みましたが、ペットボトルに限らず、過去数十年にわたり、多くのごみが日本から太平洋に流出していたと思われます。北太平洋には巨大な「太平洋ごみベルト」と呼ばれる漂流ごみの一群があり、その面積は日本の国土の数倍にもなるという報告もあります。太平洋ごみベルトの形成に日本は大きな関わりがあるのです。
では、海ごみの発生を防ぐため、これまで以上に、プラスチックごみの分別を徹底し、更なるリサイクルに励めば良いのでしょうか。次回(最終回「その4 海ごみの発生源対策」)は、これまで以上にプラスチックリサイクルを推進することの難しさと、海外で始まっているプラスチックの総量抑制をとりあげます。(以上)

※1 「海洋ごみとマイクロプラスチックに関する環境省の取組」p8「3.環境省の海洋ごみの実態把握調査(漂着ごみ調査結果(個数))」より。以下※4まで※1が出典。http://www.env.go.jp/water/marine_litter/2016.html 第2部「開会・環境省の取組」より
※2 沖縄県石垣市域で回収されたペットボトル977個のうち82%が中国製。長崎県対馬市域は回収914個の51%、山口県下関市は回収1,110個の55%が韓国製。
※3 鹿児島県南さつま市117個(72%が日本製),茨城県神栖市211個(82%が日本製)。
※4 兵庫県淡路市では漂着ペットボトル681個(98%が日本製)。
※5 PETボトルリサイクル推進協議会(ペットボトルの製造販売等に関わる企業でつくる業界団体)の発表による。
※6 PETボトルリサイクル推進協議会「PETボトルの回収率の推移」http://www.petbottle-rec.gr.jp/data/transition.html
※7 NPO法人プロジェクト保津川。事務局京都府亀岡市、代表者原田禎夫
※8 NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム。事務局東京都江戸川区、代表理事佐藤正兵
※9 NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラムの2016年年次報告書は、2015年に荒川流域で214,003個の散乱ごみを回収し、うちペットボトルが36,905個を占め、7年連続でトップだったと報告しています。
以下、2位食品のポリ袋17.986個、3位食品のプラスチック容器16,351個、4位飲料缶13,241個、5位食品の発泡スチロール容器13,145個と続き、6位以下も含めてプラスチック製容器包装が多くを占めていることが報告されています。

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