当たり前に使われている「レジ袋の消費量305億枚」
「レジ袋の消費量305億枚」でネット検索すると、多くの記事が出てきます。そのなかに「現在国内では年間305億枚のレジ袋が使われています。」と書いた記事をよく見かけます。この「305億枚」という数字は、市民団体、スーパーマーケットだけでなく、自治体のホームページでもよく使われています。
「約300億枚」ではなく、「305億枚」という半端な数が、リアル感を醸しています。誰がこの数字を言い出したかというと、日本ポリオレフィンフィルム工業組合が2002年の消費量をもとに計算して公表したものです。ただし、すでに同組合のWEB上からは削除されています。
「305億枚」は、オウンゴール
「305億枚」という数字は、赤ちゃんや幼児を除いた国民1人当りに換算すると、ほぼ1日に1枚使っていることになり、たいへんわかりやすい数字です。そのため、前述のように多くの団体等が「こんなに多く使われている!」という意味を込めて紹介し、それを見た多くの人たちに「よくわからないけれど、たくさん使っているのね。少し減らした方がいいのかな」という思いを起こさせました。日本ポリオレフィンフィルム工業組合は、レジ袋やその原料を作っている企業でつくる業界団体ですから、「レジ袋は、皆さんの暮らしの必需品ですよ」というつもりで情報提供したと思います。それが「減らさなければ…」という思いを起こさせたとしたら、まさに「オウンゴール」となったわけです。
検証!そもそも「305億枚」だったの?
「305億枚」という数字は、10年以上前に出されたものですから、いつまでも「現在」という枕詞を付けて使うことは不適当です。2002年より後、各地でレジ袋有料化をはじめ、削減運動が本格化するのですから。それだけでなく、そもそもこの「305億枚」は、けっこう怪しい数字です。
すでに組合のWEBから記事が削除されているので、「レジ袋の環境経済政策(舟木賢徳)」※1の記載に頼れば、組合の試算はおよそこのようなものでした。「国内企業のレジ袋出荷量が約13万トン。海外から輸入された『ポリエチレン袋』が約34.4万トンで、うち半分(約17.2万トン)がレジ袋と思われる。計約30万2千トンのレジ袋が出荷(販売)された。これを1枚9.9gのLLサイズに換算すると、305億枚になる」
9.9gのLLサイズのレジ袋というのは、食品スーパーでは滅多にもらうことのない大きなサイズです。スーパーのレジで最も多く配布されるLサイズ(6.8g)※2で計算し直すと、約440億枚になります。
クリックすると拡大します。
305億枚は、かなりの過少申告
まだあります。平成20年度に、経済産業省が、三菱総研に委託した「容器包装使用合理化調査」の報告書(以下「報告書」)※3は、日本ポリオレフィンフィルム工業組合が発表している統計は、組合加盟企業だけを対象にし、組合非加盟企業のレジ袋出荷分を含めていないことを指摘しています※4。「報告書」では、2007年の組合加盟企業のレジ袋出荷量12.4万トンに対し、組合非加盟企業を含めたレジ袋の出荷量を20万トン(約1.6倍)と試算しています。
また、スーパーやコンビニのレジで配られるレジ袋の他にも、書店や衣料品店が商品を入れる持ち手が飛び出ていない「レジ袋」もあります。後者は「アームバッグ」や「ファッションバッグ」と呼ばれ、統計上「レジ袋」に含まれていません。これも消費者から見れば、「形の違うレジ袋」です。ただし、割合は多くなく、(狭義の)レジ袋95%に対し、「アームバッグ」や「ファッションバッグ」は5%だということです。
一方、輸入ポリエチレン袋の中に、組合加盟企業の海外工場での生産分が含まれ、それが組合の「レジ袋出荷量」統計と重複している可能性があると、「報告書」は指摘しています。
クリックすると拡大します。
では、今のレジ袋の使用量はどれぐらい?
日本ポリオレフィンフィルム工業組合の統計によれば、2015年の「レジ袋出荷量」は9.2万トン。前出の「報告書」に倣い、組合非加盟企業分を考慮して1.6倍すると、14.7万トン。輸入ポリエチレン袋が52.8万トン。特にここ数年の輸入ポリエチレン袋の増加が目立ちます(下図参照)。輸入ポリエチレン袋については、日本ポリオレフィンフィルム工業組合の2002年の試算に倣い、うち半分をレジ袋とすると26.4万トン。合わせると41.1万トン。「ファッションバッグ」や「アームバッグ」が「5%」あるとして加えると、43.3万トンになります。
この数字をLLサイズ(9.4g)※5で換算すると、約460億枚になります。Lサイズ(6.8g)で換算するならば、約636億枚になります。前述のように、輸入ポリエチレン袋のなかに、一部「レジ袋出荷量」との重複があると思われますが、だとしても、2002年よりレジ袋消費量が増えている可能性大だと思われます。
今後の課題
なんともショックな数字が出てきました。スーパーマーケットでは、地域をあげたレジ袋有料化をはじめ削減活動が進展する一方、コンビニエンスストアやドラッグストア、ホームセンターなど、食品や日用品の購入先が多様化し、スーパーマーケット以外でのレジ袋削減がほとんど広がっていないことが気になっていました。
あくまで試算ですが、2002年から10年以上経ち、レジ袋の消費量は増えています。もちろんこれまでのレジ袋削減活動に意味がなかったわけではなく、スーパーマーケットだけを取り上げれば、おそらく減っているものと思われます。問題はそれ以外の小売業種に広がっていないこと。今後のレジ袋削減、さらには容器包装全般の削減における大きな課題がここにありそうです。
ついでに。「レジ袋の消費量305億枚」って、使っちゃいけないの
今回、レジ袋の消費が2002年よりむしろ増えているとの試算を示しました。ただ、本稿で示した数字は概算であり、「この数字を使え」というつもりはありません。ただ、本文中にも書きましたが、「現在」という枕詞を付けて「レジ袋は年間305億枚使われています。」というのは、明らかな間違いです。
もし、日本ポリオレフィンフィルム工業組合の試算を引用するならば、「レジ袋の年間消費量は、2002年当時約300億枚使われていたという試算があります。」と表現するのがよいと思います。できれば、出典として「日本ポリオレフィンフィルム工業組合資料より」を付記されるとよいでしょう。
☆ここまで書いて、2016年9月18日夜公開しました。以下は追記です。
薄肉化を忘れていた…
公開後、2日で700アクセスをいただきました。その後で気付きました。「レジ袋の薄肉化」を考慮するのを忘れていました。
前出の「容器包装使用合理化調査報告書」にも「レジ袋の薄肉化・軽量化の状況及び利用素材の状況等」という報告が掲載されています。そこには「レジ袋は、約 30 年前(レジ袋が世に出始めた頃)は、30~35ミクロンであったが、現在では、L、LL タイプで17~18ミクロンへと約30%の薄肉化がされてきている。」との記載があります。袋の厚みが薄くなったことを指していますが、上記の数字はどの組み合わせをしても、40%以上の削減になります。他、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの環境報告等を見ると、10%程度の薄肉化の実現を記載しているものが見られます。
仮に、レジ袋が全体的に2002年当時より10%薄肉化しているとすれば、先に示した枚数試算は、もっと大きな数字に改める必要があります。レジ袋を10%薄肉化すると、重量も10%軽減するならば、LLサイズは約500億枚。Lサイズなら約700億枚使用していることになります。ショッキングな数字ですが、私たちの社会の実態をしっかり押さえたうえで、環境教育や環境活動の成果の検証と、今後の課題をとらえる必要があると思います。(了)
※1 「レジ袋の環境経済政策 〜ヨーロッパや韓国 日本のレジ袋削減の試み〜」舟木賢徳,(株)リサイクル文化社,2006 ,p14より 本書は、http://www.recycle-bunkasha.com/goods/B026.htmで全文公開されている。
※2 前掲「レジ袋の環境経済政策」より
※3 平成20年度経済産業省委託事業「容器包装使用合理化調査報告書」(株)三菱総合研究所,2009.3
www.meti.go.jp/policy/recycle/main/data/research/h20fy/…/200811-2_hyoushi.pd
※4 該当箇所は、2.1レジ袋の製造、輸入、利用等の実態把握及び推計
www.meti.go.jp/policy/recycle/main/data/research/h20fy/…2…/200811-2_2.pdf
※5 「レジ袋の環境経済政策:ヨーロッパや韓国」で著者は、日本ポリオレフィンフィルム工業組合の2002年の試算中、LLサイズレジ袋の重量計算に「比重0.95」が考慮されていないことを指摘している。「比重0.95」をかけると、LLサイズレジ袋の重量は、9.9gではなく9.4gになる。
(URLはいずれも2016年9月18日確認)