ビニールハウスやガラス室など施設栽培の普及
前回の第13話「野菜の旬の変化を具体的に見ると」に続き、野菜の旬について見ていきます。「旬」そのものは変わらないのですが、消費の時期が、本来の旬をはずれて大きく変化しています。
前回取り上げたかぼちゃも夏野菜ですが、季節が正反対の南半球から持ってくることで、本来の旬とは違う時期に大量に供給されています。
今回取り上げるトマト、きゅうり、なす、ピーマンも夏野菜の代表選手です。これらは、ビニールハウスやガラス室での栽培(施設栽培)によって。冬にも出回るようになりました。
その施設栽培がいつ頃から普及したか見ていくと、1962年に原油の輸入自由化が実施されて以降広がり、その後1990年頃まで拡大の一途をたどります。1990年以降の栽培面積はほぼ横ばいになり、最近はゆるやかに減少しています。
図1 施設栽培の普及(クリックすると大きくなります。以下同じ)
特に施設栽培の割合が高い作物
特にトマト、きゅうり、ピーマンの3種は施設栽培比率が高く、市場に出回る野菜の3分の2かそれ以上が施設栽培された作物です。
4種の野菜の月ごとの入荷量の変化
では、この4種の消費の変化を、東京都中央卸売市場が扱った毎月の入荷量の変化で見ていきましょう。入荷量の変化は、ほぼ消費の変化を反映していると考えられます。前回のかぼちゃと同じように、1970年を青い実線、1990年を黒い破線、2010年を赤い破線、2015年は緑の実線で表しています。
図2 トマトの月別入荷量の変化
図3 きゅうりの月別入荷量の変化
図4 なすの月別入荷量の変化
図5 ピーマンの月別入荷量の変化
1970年頃はほぼ本来の旬の消費に近いと考えられます(青い線)。その後、旬以外の時期(季節はずれ)の入荷が多くなっていますが、年を追うごとに本来の旬の時期の入荷(消費)が減っていることが目立ちます。
季節ごとに数量をまとめ、年間入荷量と合わせて見る
今度は、季節ごとに入荷量をまとめ、1970年以降5年刻みで見ていくことにします。同時に年間入荷量の変化も見ていきます。冬(1月,2月,12月)は青、春(3月,4月,5月)は緑、夏(6月,7月,8月)は赤、秋(9月,10月,11月)は黄色の棒グラフで表し、年間入荷量は青い折れ線で表しています。
図6 トマトの季節ごと及び年間入荷量の変化
図7 きゅうりの季節ごと及び年間入荷量の変化
図8 なすの季節ごと及び年間入荷量の変化
図9 ピーマンの季節ごと及び年間入荷量の変化
それぞれの野菜で違いはありますが、いずれも1970年頃は赤い棒(夏)が突出していました。年々他の色の棒が高くなり、年間入荷量を押し上げますが、やがて夏の赤い棒が低くなり、全体の入荷量が減ります。
減っているのは「旬」の消費
ここにあげた4種の野菜は、夏野菜の代表ともいえますが、いずれも近年消費が減少しています。他の新しい野菜に人気を奪われたのかもしれませんが、この4種に限らず、「消費者の野菜離れ」ということがよく言われます。原因として、野菜の調理を煩わしく思う人が多くなったことや、家事にかける時間の減少もあるのかもしれません。しかし、それだけではないように思います。
夏野菜を無理して寒い時期に栽培しても、本来の旬に栽培されたものより味は劣ります。エネルギーを多く使うため、価格も高くなります。季節はずれの野菜が入手できることは料理のバリエーションを増やし、消費者にとってもメリットがあったことでしょう。しかし、いずれ「季節はずれ」といっても珍しくなくなります。高くておいしくない野菜が多く出回ることで、野菜の本当のおいしさを知らない世代が生み出され、そのことが、消費者の野菜離れを加速させたのではないでしょうか。
なにより 冬には冬野菜を利用しよう
夏野菜を冬に生産し出荷しようとすると、多くのエネルギーが必要です。最近はバイオ燃料を用いたビニールハウスも現れていますが、まだまだ施設栽培を支えているのは「化石燃料」。露地栽培と施設栽培が必要とするエネルギーの比較データは新しいものがなかなかなくて、少し古いデータですが、図10を掲示します。これを見てもらうと、同じ重量の作物を栽培するのに、旬の時期の路地栽培と施設栽培(特に加温)で必要なエネルギーが大きく違うことおわかります。
夏野菜はできるだけ夏のお楽しみにしておいて、冬には冬野菜を利用しましょう。
というわけで、次回は冬野菜の消費の変化を取り上げます。