食品ロスだけではない「食と環境」
近年、食品ロスが大きな問題として意識されるようになりました。まだ食べることができるのに捨てられるごみ「食品ロス」の発生は、たいへんな問題ですが、食と環境問題との関係は、まだ他にもあります。
その1つが、生産や輸送に必要なエネルギー。特に農産物の場合、本来の旬と異なる季節に生産するため、ビニールハウスや温室などを用いて栽培したり(施設栽培)、季節や気候の違う遠方から運んでくることで、多くのエネルギーを使います。 その背景には、旬を忘れた私たちの暮らしがあります。
図1は、少し昔に作ったグラフですが、同じ作物を、本来の旬の時期に露地栽培で作った場合と、季節はずれにビニールハウスや温室でつくった場合とで、必要なエネルギーを比較したものです。季節はずれに野菜や果物を作るのに、多くのエネルギーが必要であることがわかります。
それぞれの野菜の旬って、いつだった?
主要な野菜を取り上げ、本来の旬がいつだったのか、あわせて消費が、どのように変化したか、見ていきましょう。東京都の中央卸売市場への毎月の品種ごとの入荷量を、1970年からほぼ20年ごとに見ていくことにします。入荷量はほぼ消費量を反映していると考えられます。
まず、1970年の入荷量を青線で表しています、大阪で万国博覧会が開かれた年です。「万博」と言って、どこの開催地を一番に連想するかで、年代がわかります。「大阪・吹田」という人は間違いなく(間もなく)シニアです。
そんなことより、1970年といえば、高度経済成長期でしたが、スーパーマーケットやファストフード、ワンウェイ飲料容器(スチール缶でした)などが出回り始めた頃で、まだ商店街や個人商店(八百屋)が元気で、野菜の本来の旬が見られたと思います。
次に1990年を黒線で表しています。この当時はバブル景気の真最中でした。各地の商店街も地上げなどでシャッターを降ろす店が目立つようになりました。2010年は赤線。東日本大震災の前年。「失われた20年」などと言われた時期です。緑の点線は2018年です。現時点で年間データが揃う直近年です。
取り上げたのは夏野菜 よく施設栽培されているもの
今回取り上げたのは、トマト、きゅうり、なす、ピーマンといった夏野菜を取り上げました。下の図2から図5をご覧ください。この4種は比較的施設栽培の比率が高い野菜です。「本来の旬(収穫時期)と違う季節に食べたい」という欲求は、野菜だけでなく、魚介類も含めて昔からありました。生産者や流通・小売業者は様々な工夫や努力をして、季節はずれの野菜を消費者に提供してきたわけです。江戸時代であれば、畑の畝に稲わらをかぶせたり、畝の中に堆肥やおがくずなどを入れて、発酵熱を用いて促成栽培をしていました。今ではビニールハウスや温室を用いた施設栽培が行われます。中には、木質ペレットなど再生可能エネルギー利用もありますが、ほとんどが化石燃料に頼っています。その結果起きていることは、「エネルギー消費の拡大」だけではありません。
真冬に夏野菜を作り続けたことで…?
どの野菜も、1970年の青い線を見ると、夏の入荷が突出して多かったことがわかります。その「夏の山」が年を経るほどに小さくなり、一方、冬の消費が盛り上がり、「山」が全体的になだらかになっていきます。
よく「季節はずれの消費が増えた」と言われますが、施設栽培による季節はずれの収穫や出荷が増えると、「本来の旬(この場合、夏)の消費が減る」ことにも注目してください。そして、山が全体的になだらかになると、今度は、山のスケールが小さくなります。
どうしてこのようなことが起きるのでしょうか。野菜離れや、野菜の中でも海外原産の新たな品種に人気が移ったり、様々な要因が考えられます。ただ、この消費(入荷量ですが)の推移を見ると、単純に「野菜離れ」や「他品種への人気移行」だけが理由とは思えません、本来の旬(その作物にとって最もおいしい時期でもある)より季節はずれの生産と出荷に力を入れたところ、その野菜の魅力が伝わらなくなってしまったのではないか、そんなことも思います。
特に、夏の農場で食べる採れたてのトマトと、冬に食べるトマトの味の違いを思い浮かべると、1人で「さもありなん」とうなづいてしまいます。