フランスは、こんなことまでやるんだ…
前回の堀プログ「使い捨てプラスチックの削減、世界はずっと先に!で、フランスが使い捨てプラスチック削減に向けて様々な手立てを打ち出していることをお伝えしました。しかもそれらが「環境保護法」ではなく、「循環経済法」で規定していることもお伝えしました。経済のあり方そのものを変えようとしていることに注目する必要があると思います。
でも、中身を見ると、身近な内容を多く含んでいます。例えば、ファストフード店でのプラスチック製おまけおもちゃの禁止や、スーパー等小売店での青果物のプラスチック包装の禁止(当初は31種)などです。
フランスは、プラスチック削減だけに力を入れているわけではありません。「気候変動対策・レジリエンス強化法」には、「え、こんなことまでやるの?」と思うような内容を含んでいます。カーボンフリー社会を実現しようとする強い姿勢とともに、本気でカーボンフリー社会を実現しようとすると、こういうことを積み上げていく必要があるのだと感じました。
気候変動対策・レジリエンス強化法のおもな内容
JETRO(日本貿易振興機構)「市民からの政策提言を基に環境法を策定・施行」から気候変動対策・レジリエンス強化法の特徴的な条項を書き出し、次項で、末尾の「※」の番号順に「解説(というか感想なのか、突っ込みどころ)」を記します。
《消費・食品関連》
・製品・サービス消費による環境負荷を表示する制度として、「エコスコア」を導入する(※1)。
・化石燃料に関する広告を禁止する。2028年までにCO2排出量が走行1km当たり123g以上の乗用車の広告を禁止する(※2)。
・2025年から社員食堂などの民間ケータリングサービスが使用する食材の50%を「持続可能または高品質な製品」とする。さらに、このうち20%を有機にするよう義務付ける(※3)。
・400m2以上のスーパーマーケットの量り売り販売の面積を2030年以降、全体の20%以上とする(※4)。
《交通関連》
・列車を利用して2時間半以内で移動ができる短距離区間での航空路線の運航は、経由便など一部を除いて禁止する(※5)。
・CO2排出量が走行1km当たり123g以上の車両の販売を2030年に禁止する(※6)。
《生産》
・園芸・日曜大工用の電動機器、スポーツ・娯楽用品(電動アシスト自転車を含む)の製造業者および輸入業者に対し、当該製品の販売終了後最低5年間、修理用部品の提供を義務付ける。
《住宅・建築物》
・地表面被覆の人工化を今後10年間でこれまでの10年間の半分に減らすことを目標に設定し、郊外の大型商業地区の新設を原則禁止とする(※7)。
・500m2以上の商業施設、1,000平方メートル以上のオフィスビル、500m2を超える駐車場の建設、拡張、大規模な改築について、ソーラーパネルの設置や屋上の緑化を義務付ける。
気候変動対策・レジリエンス強化法の見どころ
※1 エコスコアについて
もともとフランスの食品関連のIT企業や市民団体が共同で作成した自主規格で、2021年1月に発表され、EUはじめ各国に広がっています。それぞれの食品が生産・加工・包装・輸送などの段階での、CO2排出量や生態系への影響など16の環境基準に基づいてA~Eまで5段階でランク付けされて、商品に表示されます。
フランスは一定以上のスーパーマーケットやレストランでの食品廃棄を禁止していますが、出たごみの始末だけでなく、食の環境影響をトータルに低減しようとしています。
※2、※6 走行1km当たりCO2123g以内
環境省や経済産業省の資料によれば、ガソリン1リットルを燃焼した場合のCO2排出量は2.322 kgですので、「走行1km当たり123gまで」ということは、ガソリン車の場合、1リットルで19km以上走る燃費性能がなければ、2028年以降「宣伝してはダメ」になり、さらに2030年には「販売もダメ」になります。
フランスでは2040年以降、ガソリン車やディーゼル車はハイブリッド車も含めて販売が禁止されますが、それよりずっと前から、事実上純ガソリン車は宣伝も販売もできなくなります。
※3 20%を有機にするよう義務付ける
50%のうちの20%ですから「10%」ということですが、すごい数字です。農水省の資料を見ると、「日本国内の農産物総生産量のうち有機農産物が占める割合は、茶は6%程度、野菜や大豆は約0.4%、米や麦は0.1%弱(2017年度)」と報告されています。この他、輸入食品の中にも有機農産物はありますが、それでも「10%」という数字が如何に大きな数字がわかります。
※4 400m2以上のスーパーは、量り売り販売の面積20%以上
売場面積400m2は、日本でも「小さなスーパー」です。2017年の「統計・データでみるスーパーマーケット」によると、「売場面積の全体平均は都市圏で1,037.8m2」とあります。400m2とは、日本の都会のスーパーの平均面積の半分以下。それでも「量り売り販売の面積を20%以上に」することを求めています。
しかも別の法律で、はかり売り売り場に商品持ち帰り用プラスチック袋を用意することを禁じています。
※5 列車を利用して2時間半以内は、航空便運航禁止
これは本当に驚きました。日本で考えると、東京から新大阪まで、東海道新幹線のぞみ号で最短2時間27分。東北新幹線なら盛岡でも2時間13分。北陸新幹線で金沢まで行ってもかがやき号で最短2時間30分。
フランスにもTGVという高速鉄道が走っています。パリからリヨンやボルドー、ベルギーのブリュッセルまで2時間。東部のドイツ国境に近いストラスブールで2時間20分。ユーロスターに乗ってロンドンまで行っても2時間15分。かなり広範囲の航空便が運行禁止対象になります。
「実際にこの措置は実行されるのだろうか」、また「エアバスやエールフランスは抵抗しないのだろうか」などいろいろ考えてしまいます。でも、カーボンニュートラルを実現しようと思うと、「ここまで取り組む必要があるだろう」とも思いました。
※7 地表面被覆の人工化を今後10年で半分に減らす
皆さんのご近所でも、最近植栽のない新築の家が増えていませんか。庭はあってもほとんどコンクリートで覆っている家を多くみます。そういう家のオーナーを責めているのではありません。カーボンニュートラルや生物多様性などの大きな政策を、どのように実現するか具体策とのつながりのなさを感じます。と言っている間に、今日もまた農地や緑地が表土ごとコンクリートで埋められていく…。
フランスって原発大国だけど…
フランスは原子力発電の依存度を今後下げていくとしていますが、それでも原発大国に違いありません。なので「フランスをお手本に」とは言いません。ただカーボンニュートラルは、なにか大きな政策(たとえば「水素社会の実現」など)で実現するのではなく、社会のすみずみまで目を配り、「何が持続可能か」を考え、いくつもの具体策を積み上げていくことで実現するのだと思います。そのことを、フランスの気候変動対策・レジリエンス強化法や、前回紹介した循環経済法から学ぶことができると思います。
次回は冒頭に紹介した「スーパー等小売店での青果物のプラスチック包装の禁止」に関連して、日本のスーパーマーケットのプラスチック包装について調べた結果を紹介します。
出典・参考URL
JETRO(日本貿易振興機構) 2021.12.6
市民からの政策提言を基に環境法を策定・施行(フランス)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2021/46c5285cbc7ab47a.html
※1 の参考記事
日本食糧新聞 2021.10.14
食品の環境負荷を5段階でランク付け フランスの「エコスコア」に注目
Informa Markets 2021.1.29
European eco label scheme set to launch in 2022
https://www.ingredientsnetwork.com/european-eco-label-scheme-set-to-launch-in-2022-news113169.html
JETRO(日本貿易振興機構) 2021.1.18
食品の環境負荷を表示する「エコ・スコア」導入開始(フランス)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/01/e94f5b2dc07f23c1.html
日本経済新聞 2021.11.4
「エコスコア」欧州で広がる 食品の環境格付け表示
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR29DC30Z20C21A9000000/
※2 ※6の参考URL
環境省「燃料別の二酸化炭素排出量の例」
※3の参考URL
有機農業をめぐる事情
令和元年8月 農林水産省生産局農業環境対策課
※4の参考URL
一般社団法人全国スーパーマーケット協会「統計・データでみるスーパーマーケット」
http://www.j-sosm.jp/numeral/index.html
WEBサイトは、すべて2022年7月13日最終確認